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『本日の稽古はこれで終了です。お疲れ様でした』
グルガンは幼子には些か負荷の大きい鍛錬を乗り越えたブランクを労い、わざわざ膝を折ってタオルを差し出した。それに対して「やめてくれ、そんな態度は」とまだ言うことのできなかったブランクは素直にそれを受け取り、息を整えながら汗を拭った。
これが終われば身を清め、食事を挟んだ後は同じくグルガンの手によって勉学に勤しむ。そうして単調ながらも大切な日々を積み重ねる中で、今日のブランクはふと頭に浮かんだ疑問を師でもあり親でもあるグルガンに尋ねてみた。
『グルガン。我は何故強くならねばならないのだろうか』
『大切な者や己の身を護るためではないかと思います』
『……』
ブランクはそれが建前であることを直ぐに見抜いた。自身や家族はグルガンを始めとするボルトガードが既に護っており、父や姉は自分よりも強い。不測の事態に備えると言うお題目はあるが、こうして毎日息を切らせてまで戦闘力を身に付ける意義までは見出せなかった。
『怖くなるのだ。己を鍛え上げる程、当然だが我は強くなって行く。恐らく何の訓練も受けていないのであれば、大人にでも負けはしない。平民の類なら容易く叩きのめせるだけの力がこの中にあると思うだけで……』
だから、建前ではなく本当のことを教えて欲しい。そんなブランクの願いをグルガンは無碍にできなかった。
『……今、ブランク様の仰られたことが真相で御座います』
『どう言うことだ。我はただ自分の力が怖いと言っただけだぞ』
『ブランク様がそう思うと言うことは、他者もそう思うのです。特に私達が支配し統治するべき他の貴族がそう思うことに意義があるのです』
逆らえば殺される。そんな楔を打ち込むことで、マキナ家と周囲の関係はより強固で盤石なものとなる。グルガンはそう答えた。
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