謀略の発芽

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坂を転げ落ちるかのような激情は、そう容易く鎮まることはない。ブランクは視界の外で崩れているグルガンに気付くことなくギランハーツへの攻撃を再開する。 繰り出すのは光の翼の中での制約に則った捻りの無い打撃だが、情けや容赦と言ったリミッターを外したそれは既に戦意を喪失した相手を徹底的に叩きのめすには十分過ぎるほどであった。執念に縋り倒れないように堪えていたがそれも限界を迎え、ギランハーツは遂に膝を折って地面に倒れ伏した。 「ブランク、もうその辺で……」 「随分と余裕ではないか。我を前にして呑気に就寝とはな」 龍希の声は届いたが、やはりブランクの怒りは収まらない。髪を掴んで顔を持ち上げ、反対の手を浮き上がった顎の下に差し込んで無理矢理立ち上がらせる。それだけに留まらず、腕を目一杯上に伸ばすことで首を締め上げた。 ギランハーツの身長がブランクより高かったことも幸いし、爪先を伸ばすことで辛うじて地面に接していた。しかし振り解く気力は残っておらず既に青息吐息であるため、力尽きるのは時間の問題である。 (いけない!) 悲しみに暮れている時間はない。グルガンは我に返り思い出を振り払うと、螺旋階段から飛び降りてブランクが展開している光の翼の前に降り立った。 「……迎えが来たようだな。グルガンに感謝しろ」 ブランクはそれを見て不貞腐れたような態度で手を放し、着地の衝撃でよろけているギランハーツをグルガン目掛けて思い切り突き飛ばした。その時気を揉みながらその様子を見ていた龍希は信じ難い光景を目にした。 「兄様!」 グルガンがギランハーツを受け止めようと手を伸ばす。それだけであれば何の問題もないが、その手の先が翼の内側に一瞬だけ入り込んだ刹那を龍希の瞳だけが捉えていた。
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