謀略の発芽

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グルガンはギランハーツを受け止めることに神経を使っていたこともあり、一瞬の出来事に気が付いていない。周囲にもこの異変を察知した者はおらず、龍希は動揺を晒さぬようゆっくりとブランクに近付いた。 「これ程までのものだとは……」 ブランクは広げた手でこめかみを挟むようにして顔を覆い、未だに胸の奥から湧き上がり続ける憎しみが呼ぶ不快感に抗っている。数奇なことに、その様はブランクからの愛情に腐心するガルドに瓜二つであった。 龍希はその様子を見て、ブランクの精神が最悪の状況でありそれが先ほどの綻びを呼んでしまったことを察知した。顔を大きく動かさぬよう眼球を痛くなる程に酷使し、光の翼が生み出す結界の輪郭を確認した。するとブランクの荒い呼吸に反応しているかのように時折ノイズが走り、一部が薄れて境界が曖昧になる光景が何度も飛び込んで来た。 「ブランク。今は一旦場を改めよう」 「ああ……」 これ以上ブランクの疲弊が悪化すれば、恐らくこの結界は容易く崩れ去る。絶対優位を失えば、囚われの身を回避するために国軍との対立を今度こそ決定的にすることも覚悟しなければならない。 そうなる前に、ギランハーツへのドラゴン流の格付けを済ませたこのタイミングで撤収することが最善であると確信し、龍希はブランクの弱々しい背を摩りながら後退を促した。 「ま、待て……!」 (コイツ……!) 龍希は思わず目を固く瞑って顎を上げてしまった。 重い踵をようやく返し、立ち去ろうとした二人を掠れた声が引き留めた。言うまでもなくそれはグルガンの手の中で意識を取り戻したギランハーツである。 龍希が見出した最善とは即ちギランハーツにとっての最悪であり、このまま勝ち逃を許せばブランクが予め宣言した通り立つ瀬を失う。それだけは退けんとする執念が勝者である筈の二人を追い詰めた。
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