謀略の発芽

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「もう一度だけ、最後に確認しておく。俺に逆らいこの場を去ることがどう言うことなのか、本当に分かってるんだな。この城には、お前以外にもあと二人マキナがいることを忘れるなよ」 この期に及んで何の生産性もないただ相手を不快にさせるだけの脅し文句をぶつけに来るギランハーツを龍希は心底軽蔑したが、その甲斐あってかブランクの足は止まった。 龍希が緊張感を高めながら見守る中でブランクは口を開き、何かを言い掛けて直ぐに閉じた。そして片足を横に出して体ごと首を捩じり、最小限の動きで後ろを振り返った。 「黙れ。貴様と話すことは何もない」 挑発に乗せられることはなく、短くそう吐き捨てて歩行を再開するブランクを見て龍希は安堵する筈であったが、それどころか暫くの間その後を追うことすらままならなかった。 (何だ、今、体が……) 原因は精神的なものか、物理的なものか、龍希には判断することができなかった。自分の周囲にある空気が一瞬だけドロリとした質感に変貌し、体に纏わり着くような感覚が今も肌に残っている。 どうにかそれを振り払い、速足でブランクの隣まで戻るとそのまま城を後にした。真正面から戦闘になることを避けるためか、空中に飛び立っても追手が来ている気配はない。姿を消す魔法を使われていることも考慮し、それを暴く切っ掛けを作ることができる雲や森の中を何度も抜け、二人はようやく小高い丘の上にある草原で一息入れることができた。 「どうだ、ブランク。まだ気分は悪いか?」 「ああ。思い出しただけで胸が潰れて息が詰まる」 先ほど起こった光の翼の綻びや変質など聞きたいことはいくらでもあった。しかし龍希はかつて自分がそうしてもらったように、ブランクの精神を第一に考え気分が落ち着くまでただ静かに寄り添うことにした。
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