謀略の発芽

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最後に睨みを利かせたブランクの目線はギランハーツだけを見据え、隣にいる自分のことは視界に入ってはいなかった。それを理解していても、あのブランクから憎悪を向けられたことに対する衝撃はグルガンの精神を静かに揺らし続けた。自分からブランクの下を去っておきながら、自分の下から去って行くブランクの姿を見て、押し殺した筈の心が炙り出される感覚があった。 「大丈夫ですか、兄様。お怪我の方は……」 そんなことを思い悩みながら二人が飛び去って暫く経ち、グルガンはようやく自分の言葉を取り戻した。同じく満身創痍で呆然としているギランハーツに声を掛け、思考を呼び戻す。 「狼狽える程じゃない。だが医療班は呼べ」 単なる殴り合いによる負傷は魔法を使うことで容易く完治することが可能であるが、名誉に付いた傷はどうにもならない。体が再び自由に動くようになるにつれて、痛みによって抑え込まれていた屈辱がギランハーツを焼いた。 「あの暴漢に対して一歩も引かない御姿勢、見事でした」 「ウェイク……そう言ってくれると助かる」 ブランクの立場を底まで突き落とす切っ掛けを作り出したウェイク・オラングは座り込んでいるギランハーツに快く手を差し伸べた。経緯と事情を知る者からすればやや苦しい擁護であるが、今のギランハーツにとっては自分を称える言葉は例え世辞であっても搔き集めておきたいものであった。 その手を借りて立ち上がると、ある程度は気概を取り戻し逃げたブランクを捕らえるために討伐隊を結成すると息巻いた。 (この男は私達の知らない場所でブランク・マキナと接触した……そして、兄様に朗報と称して炎の貴族との結託があったことを報告してきた) 一方でギランハーツを助け起こすと言う役割を自分から奪い、ブランクを目の前で暴漢と呼んだウェイクを完全には信用できないとグルガンは訝しんだ。
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