謀略の発芽

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エルゼはガルドの言うことも一理あると認めつつも、自分自身と言う誤魔化しようのない前例がいる以上、やはりブランクに負の感情が募ってしまったことへの懸念は消えなかった。 「あの表情を見たか。苦悩、苦痛に染まる様が映像越しでもハッキリと伝わった」 驚嘆などを始めとする無意識かつ反射的なものではなく、紙縒(こより)が水を吸い上げるかのようにじわじわと感情が浸透したことに表情の変化は悲痛の一言に尽きる。そんなブランクの姿を龍王と言う役職の中で心を痛め続けてきた自分の過去に重ね、エルゼは胸の中央に握り拳を当てた。 エルゼは負の感情と向き合うことを諦め心の奥底に封印し続け、その結果エレボスと言う一つの負の結晶体を生み出してしまうまでに至った。ブランクが自分と同じ道を歩むかどうかの水端に立っていると思うだけで、エルゼの中に居た堪れない不安が渦巻いた。 「確かに、ブランクを失った羽桜龍希の二の舞になられても困る。グルガンにそこまでの値打ちがあるのか怪しいものだが……ふむ」 ガルドは腕を組んでしばし思案すると、妙手を閃いたのか直ぐにそれを解いて窓に向かって歩き出した。何をするのかとエルゼが見守っているとそのまま窓を開けて身を乗り出した。 「お、おい……」 「父上。ブランクの面倒は私が見ますので、此処の後始末は一つ良しなに」 ドアを通ることなく粗野な手段で部屋を後にした理由は直ぐに判明した。そのガルドを標的に、ギランハーツが兵を引き連れて押し掛けて来た。 「……儂に、何か入用でも?」 「い、いえ。お騒がせしてすみません」 本来龍王で在る以上は家の名を忘れ平等に接することを心掛けなくてはならないが、ブランクとマキナ家を目の敵にし宣戦布告に等しい真似をしたギランハーツにこれまでと変わらぬ温情を向けることはできなかった。 ギランハーツは前例のないほど冷たいエルゼの声に出鼻を挫かれ、門前払いを自ら受け入れた。
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