呼び水

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自分に向けられた敵意や殺気を正確に読み取れる持ち前の感性を活かし、難なく衝突を避けたガルドは早々と王都を出て雷の国の上空を暫く飛行していた。 「追手はまだ来ないようだな。来ても炙り出して殺すつもりだったが……流石は腰抜け(ギランハーツ)だ、今まで引き際の駆け引き一本で世渡りをして来ただけのことはある」 討伐はしないにしても、行方を探るための偵察すら付けない潔さにガルドは嘲笑半分に感心した。 一通り安全を確認するとガルドはエルゼに誓った本題に取り掛かった。それは無論ブランクに力を貸すことであるが、そのブランク本人を見つけ出さずして話は進まない。 ギランハーツ率いる国軍が戦力を整えて再起するまでに合流を果たすことは絶対条件となる。悠長に探し回る時間はないが、ブランクがどこにいても分かる程の派手なアピールは逆に警戒されてしまう懸念がある。傷心のブランクが好奇心や冒険心で颯爽と身を乗り出す可能性に賭けるのは得策とは言い難い。 (ブランクはそう活発に動き回れる様子ではなかった。他人の領土に足を踏み入れる気力もあるまい。恐らくこの国のどこかで縮こまっているのだろうが、追手を凌げるような場所では私も見付けることができない。いっそのこと屋敷に籠城するか、あの色情魔が気を利かせてくれれば良かったが、それも期待できんとなれば……) 最適解を見出すべく考え込んでいると、そんなガルドの全身と目下の大地を大きな影が静かに覆った。本来であれば確認するまでもないことであるが、ガルドは繁々と上空に広がる雲を観察した。雨雲に非ず、大き過ぎず小さ過ぎず、程よく連なり間隔も丁度良く空いている。 「これが俗に言う天啓か。天の神には愛されるのではなく憎まれたかったのだが、今回はこれで良しとしよう」 閃きを得たガルドは飛行を再開し、翼の羽を引き抜いて雲の中に投げ入れると言う行動を繰り返しながら移動した。
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