呼び水

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その呼び声は届いた。 辺りを木々に囲まれながらも、直近は開けて忍び寄る者を察知しやすいと言う精一杯の利点を掻き集めた草原に龍希とブランクは座り込んでいた。 時間と言う差し迫った際には頼りない味方が心の傷を動ける程度まで手当するのを待っていた時、言葉すら発することの出来なかったブランクが突然立ち上がって空を見上げた。 「父上……」 「え?ちょ、ちょっと待ってくれよ!」 龍希は慌てて先に飛び立ってしまったブランクの後を追った。会話ができる距離まで近付く頃には、すっかり雲に触れられるほど上空にきてしまっていた。 「あ、マズイ。ちょっとこれは本当に待ってくれ……」 急激に上昇したことにより龍希の体に強烈な負担が掛かった。酸欠状態による意識の混濁と耳鳴りにより呼吸が荒くなり、ドラゴンの血によって強化された身体を以てしても吐き気が収まるまで数分を要した。 龍希が苦しむ姿を見て漸く我に返ったブランクは、精神的変化の連続で一時的にショックが紛れ普段の様子を取り戻した。 「済まない、龍希」 「もう体調は戻ったから大丈夫だ。それよりさっきの言葉の意味は……」 それに対する返答をする代わりに、ブランクは一つの雲を指差す。龍希はそれをよく観察したが他との違いを見出すことはできなかった。 「この雲がどうしたんだ」 「そうか。龍希はまだその辺りの知覚は発達していないようだな。我には感じるのだ。この雲は他よりもかなり強く帯電している。あともう少しで落雷すら起こせそうな程にな」 「じゃあ、これが雷雲だって言うのか?こんな真っ白くて透き通ったやつが?」 龍希のイメージでは雷を宿した雲は黒く濁った雨雲であることが大前提である。ブランクはこの世界でもそれは同じだと言いつつも、だからこそこの雲に特別なものを感じたと説明した。
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