呼び水

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ブランクは口に出さなかったが、この層雲に帯電させると言う技術はマキナ家の専売特許ではない。それどころか、マキナ家と深い関わりを持つレーガン家が私兵団であるボルトガードを統率するために編み出した技術であった。 つまり、ガルド以外にグルガンも扱うことができる。 (もし、この先にいるのが父上ではなくグルガンであったら……我はどうすれば良いのだろうか) 恐らく罠とは割り切れない。かと言って手放しで信用することもできない。どのような過程を辿ろうとも、恐らく最後は決別し、今有る傷をより深くする。 だからこそ口にはできなかった。その可能性を仄めかせば、龍希はこの雲を追うことを許可しないからである。 (龍希。今まで我とお前は支え合い守り合い、傷付いた時は互いを癒してきた。しかし今、この瞬間だけはお前の優しさには頼れない。飛び込むしかないのだ。どのような結末が待っていようとも……) 先程地面からブランクの中に走った電磁気は、まるで鞭を打ったかのように心身を一時的に奮い立たせた。その刺激が抜け、麻痺していた心の痛みが足を竦ませるまでそう長い時間は残されていない。今はこの一時的な覚醒と狂いに身を任せ、前に進むしかないとブランクは決意した。 そして意志が、ガルドとの再会と言う成果を勝ち取ったのであった。 「案外早かったな。もう立ち直ったのか」 「ち、父上……まさか、父上まで追われる身に」 「知らん。奴の腹積もりなどさして興味はない。私の立場ではなく自分の身を案じたらどうだ。もう一度聞くが、傷は癒えたのか?」 「いえ、万全とは……」 現に、こうしてガルドの姿を確認するまで怖くて仕方がなかった。これから先についても、ギランハーツの手下としてグルガンに追われることを考えるだけで憂鬱であった。
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