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国境を警備している水の国の住人に発見されるわけにはいかない。万が一戦闘になっても負けることはないが、揉め事を起こすと今後の行動に支障が出るとガルドから忠告を受けた。
そうなれば必然、山を登る際の口数は減り周囲に意識が向く。足音だけが斜面に吸い込まれる静かな環境で、龍希の脳内は自然と整理されて言った。
(そうだ、二回目じゃない。山登りが二回目なだけで、ブランクと水の国に行くのは三回目じゃないか……)
心に居座る重荷を一つずつ端に寄せ、埋もれていた大事なものを少しずつ掘り起こす。
「ちょっと待ってくれ。この国境には警備なんていない。以前ブランクと来た時もメアーゼの屋敷まで一気に行けた。目的地はそこなんだろ?」
「ほう」
関心を持ったガルドに促され、龍希は以前ロゼに会うために水の国を訪れたことを話した。
水の国はエレボスが引き起こした動乱が原因で貴族と平民の対立が深まっており、残された数少ない貴族は平民の領地との境界である外周部を警備している。とてもではないが、隣国との境界線に人員を割く余裕はない。
「そうか。今はどの国もそうだが、規模が縮小したことで王都から内情が把握できなくなっていてな。水の国と雷の国が辛うじて平和かと思ったが、奴等も苦労しているのか」
「緊張が高まってるってだけで決定的な抗争はまだ起こってないみたいだから一応平和ではあると思う。俺とブランクが最後に確認した限りでは」
「ならば今回はその情報に従うとしよう。手薄だと分かっていてわざわざ時間を掛ける余裕はない」
「だけど、今回はそのほんの僅かな余裕に助けられた。やりきれない思いが多過ぎて、ロゼとシリウスに挨拶をしたことさえ忘れてた。その後ブランクと綺麗な景色だって見たのに……やっぱり、大切だな。地に足を着けて考えるって言うのは」
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