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どうにか話はまとまり、龍希とブランクは二人用の客室に案内された。内装はイメージ通り最低限の家具を除いて密林の内部のようになっており、床は勿論のこと壁や天井に至るまで水辺の植物が張り付いている。
「一応害虫は入らないように管理してるけど、最近は手入れしてないからちょっと自信がない」
「まあ、野宿より百倍マシだよ。その辺に目を瞑ればこんなワクワクする部屋はない」
「この屋敷に水路が通っていない部屋はないのか……?」
小川のせせらぎは心を癒す穏やかな響きだが、寝泊りする場所としてはどうにも落ち着かないとブランクは遠慮がちに尋ねた。水の属性を持つ者には理解しがたい感覚であるが、シリウスは特に気を悪くすることなく快諾した。
「まあ、水の貴族を持て成すための客室だからね。どこも水路は通ってるけど、後で弁を弄って水は止めておくよ」
「済まない。我が儘を言ってしまった」
「良いよ。実はロゼにも似たようなことを言われたんだ。落ち着くのは最初の一時間までだって」
シリウスは苦笑いしながらブランクのリクエストに応えるべく客室を後にしようと振り返ったが、丁度二人に付いて来ていたガルドと目が合った。
「これで私の用は済んだ。邪魔者はさっさと退散させて頂くとしよう」
「貴方は此処とは別に根城を持っていると?」
「そうだな。少しばかり手間の掛かる塒(ねぐら)だが、私には欠かすことの出来ない場所だ。栄養補給も兼ねて、一度戻るとしよう」
龍希とブランクはそれがネロの待つ隠れ家だと理解しているが、シリウスには自分に遠慮して身を引いたように映った。引き留める程の情は湧かなかったが、これまで不器用ながらも礼を尽くそうと努力してくれた誠意には報いておきたいと言う気持ちが芽生えた。
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