呼び水

15/29
前へ
/931ページ
次へ
色眼鏡を外せば、今目の前にいるガルド・マキナは義理の父親と言うことになる。心の中で反芻しただけでも未だに身の毛が弥立ちそうになるが、これはガルドのためではなくロゼのためであると言い聞かせて反射を抑え込む。 しかしその理性的思考の副産物として、ガルドに返すべき誠意の形を一つ思い付いた。 「なら、ロゼに一度顔を見せたらどうかな」 「どうかと言われても困るが。何故だ?」 本人は知る由もないことだが、この一連の会話で身の毛が弥立ったのはシリウスだけではない。属性関係でマキナ家と優劣の関係にあり、友好関係など金輪際生まれないと思っていたメアーゼ家の主が、こともあろうに僅かながらの敬愛を自分に向け始めている。ガルドの脳に危機を告げるサイレンが響き渡った。 確かにシリウスと関わりのある龍希とブランクを連れ込んで協力を申し出た上に、その態度や言葉選びも極力気を遣った。しかしそれは交渉をスムーズに進めるためでありシリウスと親交を深めたかったわけではない。 そんな心情から導き出されたガルドの返事は引き攣った苦笑いであった。 「ま、まあ、父親だしその辺は……」 「奴が今更父親の顔を見て喜ぶような模範的娘ならば、そもそも家を出て貴様とくっ付いたりはしない。強いて言うなら私は別にそのことを咎めるつもりはないと、それだけ伝えておけば良かろう」 「それなら尚更面と向かって言えば良いじゃないか。禍根はないけど会わずに帰るなんて矛盾してるよ!」 (いやまあ、ガルドの場合矛盾はしてないんだけどな……) 龍希は内心密かに同情した。ただでさえブランクとのわだかまりが解けたことで度々心労を強いられており、ここにロゼも加わると単純計算で愛情は二倍である。しかもロゼとの関係が良好になればシリウスとの関係が更に修復されることは免れない。 紡いだ縁(えにし)は呼び水のように更なる良縁を引き寄せる。通常であれば喜ばしい流れだが、ガルドに限っては負のスパイラルと呼ぶに相応しい恐怖の連鎖であった。
/931ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加