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「とにかく、一度で良いから顔を見せてあげてよ。今ロゼは凄く不安定な状態なんだから」
「どう言うことだ……?」
その後ガルドは、シリウスの口から初めてロゼが身籠っていることを伝えられて驚愕した。
「私の気配が分からぬ訳ではないだろうに、それでも姿を見せないと言うことは会うのを望んでいないと思っていたが……まさか、物理的に動けない状態になっていたとはな」
「だからもう一回言うけど、会ってあげてよ。残念だけどロゼの父親は義理まで入れても一人しかいないんだから」
「む……」
ここまで言われてしまった以上、断った場合はこれまで積み上げて来た誠意が水泡に帰してしまう。ガルドは渋々とロゼの面会を許諾したが、一言二言会話を交わした程度では先ほどの衝撃は薄れなかった。
「それにしても、いや……相手は、そう言うことだと考えて良いのだな。当然」
「何が言いたいわけ」
ガルドの気質と下世話な題目が合わさった際の悍ましさは計り知れないものがあり、シリウスの周囲に漂う空気の湿度が一気に増した。
「気を悪くするな。あくまで私の知る限りではだが、あまりにも若いので驚いたのだ。跡継ぎは早く設けるに越したことはないとは言え、ロゼとて生き急ぐような齢でもあるまい」
「……確かにそれは僕も思ったよ。国のこともまだあるし、まだ早いだろうって。思ってたよ」
シリウスは語尾を濁し、口を噤みながら斜め下を向いた。続きを口にすることはなかったが、ロゼが強引に迫った形であることはもれなく三人に伝わっている。
「ま、まあ、ロゼにとってはやっと成就した恋なんだし多少舞い上がってたとしても仕方がない。なあブランク」
「う、うむ。行……好意が抑え切れなかったのかも知れぬ」
龍希とブランクは他人の嗜好に指摘ができる立場ではなかったため慎重に言葉を選んだが、ガルドはそれどころではなかった。
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