呼び水

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ロゼ・マキナは内心期待していた。シリウスに頼んで用意してもらった水流のない部屋に、厚めの窓。これにより確保した静寂が来訪者の存在を際立たせたからである。 最愛の者と過ごす静かな日々は素晴らしいものであったが、安静にしなくてはならない我が身の都合上どうしても刺激には乏しい。かと言って退屈だなどと口にすれば自分を護るために奔走してくれているシリウスに更なる負担を強いることになりかねない。 植物、動物のあらゆる部位を結集させた最高級のベッドにはもたらせないものを与えてくれる存在。それが同じ屋根の下に来ている。しかし、実際にドアを開けて中に入って来た人物はそんな淡い高揚を全て吹き飛ばす威力を持っていた。 「え、お父さん……!?」 「久し振りだな」 後から入って来た龍希やブランクなど目に入らない。最後にその二人に並んだシリウスに辛うじて説明を求めるような目線を送ることが精一杯である。 「詳しい話は後ろの誰かに聞いて欲しいのだが、暫くの間二人を此処で預かってもらうことになった」 「龍希とブランクを?」 「迷惑は掛けない……と、言いたいところだが現在進行形で巻き込んでしまっている。できる限りの尻拭いはするつもりだ」 「・・・・・・?」 立て続けに寝耳に水を流し込まれ、ロゼはまだ何かを尋ねる準備さえできていない。取り敢えず身を起こそうと体を動かすと、すかさずシリウスがベッドに駆け上った。 「だから、動く時はちゃんと言ってよ支えるから!」 「わ、私の方こそこれくらいは大丈夫だって言ってるじゃない」 父親の前だからか、シリウスの手助けを恥じているロゼを当人のガルドはぼんやりと眺めている。ブランクにとっては思わず前に出て表情を覗き込んでしまいたくなる程に不思議な光景であった。
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