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「失礼ついでにこの際聞いてしまいたいのだが……」
それでも未だに信じがたいと挟み、ブランクはロゼの献身が記憶に残っていないことを改めて訝しんだ。
「一体、その『頑張っていた時期』とは具体的にいつのことなのだ。父上と深く関れなかったことを未だ寂しく思う程度には、過去の記憶も色濃く残っている筈なのだ。それなのに全く覚えがないと言うのは、やはりおかしい」
「やはりと言うのなら、私だってさっき言った筈よ。覚えてないのも無理はないって」
「そんなにも遥か昔の出来事なのか?我が赤子の頃と言うことか?」
「……」
戸惑いを重ねるブランクを見て良心が痛んだのか、ロゼはようやく事の真相を白状した。
「私は『頑張っただけ』なのよ。つまり、何もできなかった。貴方に覚えてもらえる程のことはね」
ロゼ曰く、具体的なことは何もしていないとのことであった。想いだけでは確かに伝わらなかったとしてもブランクに落ち度はない。それを伏せたまま話を進め、ただでさえ気落ちしているブランクに罪悪感で追い打ちを掛けたことは間違いなくロゼの過失である。
「……そう言うことか」
しかしブランクはそれを責めることはなかった。単なる赦しではなく、もし自分が逆の立場だったとしても全く同じことになるだろうと言う確信があったからである。
「確かに、考えてみれば我に世話などそう簡単に焼ける訳がない」
「そう。私が思い付く程度の献身なんて、全部先回りされちゃうに決まってるもの。グルガンにね」
育児などできる筈もないガルドに代わって世話係として従事し、敬愛の限りを尽くしたグルガンが側にいては、幼子のロゼがどんな想いを秘めていようと霞んでしまうのは止むを得ないことである。
そんなグルガンを失ってしまったことを改めて思い知ったが、ブランクは龍希の心配に反して静かな気持ちを保っていた。
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