呼び水

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「まあ、この場で一遍に話すことはないわ。そこそこ長い付き合いになるんだから、今日はもう部屋で休みなさい。今は私が迷惑に思ってないってことだけ分かってもらえればそれで良いの」 「うむ。それがロゼのためにもなるな」 「私は別に参ってないわ。喋るくらいどうってことない、寧ろもっと話していたかったくらい」 「では、続きは父上と……」 「断る。私は一分一秒でも早くこの場を去りたいのだ」 「そう寂しいこと言わないでよせっかくの再会なんだから。あ、そうだ!」 ロゼの笑顔が弾けた瞬間ガルドは背筋に寒気が走ったが、既にブランクが背後に回り込んでおり手遅れであった。 「お父さん、ちょっとお腹触ってみない?最近は結構大きくなって、動いてるのが分かるようになったの」 「そんなものに興味はない、離せ!」 「父上、我々が此処に留まれるのはロゼの慈悲があればこそです。本人が交流を望んでいるのならそれに応えるのが義理ではないでしょうか」 「くぅ……ブランク、貴様面白がっているだろう」 「滅相もありません」 正確にはシリウスの匙加減次第ではあるが、ロゼが首を横に振ればそれに従うことは明らかであるためブランクの主張も間違いではない。ここまで来て交渉を振り出しに戻されたくはないだろうと言う脅しにも近いブランクの説得に後押しされ、ガルドは顔を青くしながらフラフラとベッドに歩み寄った。 そして二人が離れたことにより、残されたシリウスと龍希は一対一で話せる状況となった。 「龍希、分かったら教えて欲しい。あの人は自分の子を護るために此処まで来たのかと思えば、ロゼの申し出に喜びもしないどころか嫌がってる。だけどマキナ家のプライドに固執してるから子の相手は嫌々とやってるような様子でもない。ロゼには家のことなんてもう気にするなとさえ言ってるんだ。僕にはあの人がどう言う信念で生きているのか全く分からないよ……」 シリウスはこれまでに抱いていたガルドのイメージと今の姿を見比べて、混乱にも近い状態に陥っていた。
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