呼び水

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勢いで口を開いてしまった際は気が付かなかったが、ブランクは両親の奇天烈極まりない夫婦生活を説明するのに随分と苦心した。特にロゼの生まれた経緯については言葉に詰まったが、特にここまで来て隠してしまうと疚しさと捉えられてしまいかねないため、気恥ずかしさを振り切ってどうにか吐き出した。 「よ、夜這いしたってこと?それって……」 「うむ……父上はそれで激怒した」 存分に言葉を濁したがロゼには明確に伝わり、そのロゼが明言化したことによってシリウスも内容を察して場の雰囲気は完全に膠着してしまった。 (確かに口止めはされていない。いないが……普通はされるまでもなく口外しないものだな、これは) 反省もあったが、何にせよこれを話し切ってしまえばいよいよ核心となる。兄妹の決定的な対立とガルドの敗北、そこからブランクとネロの誕生とプラタの死。先ほどの気詰まりを払拭して有り余るほど二人を惹き付ける。しかし、一通り話を終えても会話が戻らなかった状況に変わりはない。二人は胸に湧き上がる感情に名前を付けることができなかった。 名伏し難い愛は確かにあったが、それは感動と呼べるほど綺麗なものではなく、かと言って嫌悪するほど穢れてもいない。ただひたすらに奇妙で、特異であることしか分からない。 唯一確信できることは、ガルドには不本意な愛の結晶たるロゼとブランクを忌避する理由がありながらも、それに従わなかったと言うことだけである。 「それじゃあ、さっきはお父さんに悪いことしちゃったわね……」 「いや、もう一度言うがあれで良かったのだ。ロゼ……そして、特にシリウスには言っておきたい。父上は己が愉悦のために意図して多くの者の恨みを買った罪深い過去を持ってる。それをなかったことにはできぬ。しかし今はそんな欲を捨て、苦しみを味わってでも我々に寄り添おうとしている。それが先ほどまでの奇妙な振る舞から見える、根底の意志なのだ」
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