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「無論、だから父上を赦せとは言わないが……」
「赦せって言いなよ。意気地なし」
「ッ」
容赦のないシリウスからの一言に、ブランクはギクリと体を硬直させた。
「赤の他人ならまだしも、僕が義理の父親を赦せるに越したことはないってことくらい分かる筈でしょ。そんなに自分の父親を売り込みたいのなら、最後まで貫き通しなよ」
「しかし父上の過去は多少の改心で埋め合わせできるものではない。寄り添う姿を見せるのも、我や限られた身内にだけだ。誰もが認める贖罪には程遠い」
「そうか。君には分からないんだな。これでも一応、精一杯落ち着いたフリをしてるからかもしれないけど」
「どう言うことだ」
「愛する者の親から、その関係を認めてもらえることほど心強いものはないんだ。それこそどんな過去だって霞むほど、今思えば僕は嬉しかったのかもしれない。脅したり謀略で絡め取ることもせず、対等な相手として頼みごとをしに来てくれたことが。ロゼに宿った僕との子に手を触れてくれたことが。我ながら甘くて他愛もない。だけど、これは事実なんだ」
人の心とはそれ程までに容易く揺れ動くものであるとシリウスは言った。これまでの愛が裏返ったかのように敵意や憎しみを抱くこともあれば、その逆も当然あり得る。ブランクはそれを頭では理解していながらも、他者に当て嵌めると言うことができなかった。
「罪悪を全て浄化して公明正大な存在にならなければ他者から赦されることはなく、愛される資格もない。君は貴族の世界から離れた場所に身を置いて、ずっと清い体のままだったからそんな考えができるんだろうね」
だが、世の中はそんな単純に行くものではない。シリウスは今までを振り返ってそう断言した。
「誰もが疚しさを抱えながら、全てを受け入れられるわけでもない相手と付き合いを続けてるんだ。慈愛の心を搔き集めて作った小さくて脆い鍵を、怯えながら相手の鍵穴に差し込んでは挫折する。そうやって少しずつ関係を築いてきたんだ。それはガルドでも水の貴族が相手でも変わらない。過去も今も、これから先もずっとそうして行くしかないんだよ」
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