侵掠如火

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時は遡り、龍希達が目覚めて炎の軍勢との合流とその先にある越光の救出と言う目的に本腰を入れるまで数刻ほど待たなくてはならない頃、当事者である越光は裸で飾り気のない椅子に座らされていた。 「私にも恥じらいはあると前に言ったんだがね。素直に協力すると言っているんだから隠すところは隠してくれても良いじゃないか」 「相変わらず口の減らねえ奴だな。観察対象をわざわざ布で覆うバカが何処にいるんだよ」 越光の図太い言動にも慣れ始めたアッシュはそれを適当に聞き流しながら、電極や先端に注射針の付いた長い管などをテーブルの上に並べた。 「目ェ閉じて息を止めてろ」 「えっ……うぶっ!!」 アッシュは返事どころか反応すら待たず、消毒用アルコールを染み込ませたナプキンで荒々しく越光の体を擦った。厚遇は期待するまいとしていた越光もこの仕打ちには抗議の声を上げる。 「目が痛い!おい君、何をしようとしているか知らないが私にダメージを与えるのは得策とは言えないんじゃあないのかい!」 「だから目を瞑れって言ったじゃねえかよ。何で俺がモルモットを一々待たないといけないんだ」 「顔からやらなければ良いだけの話だろう!?」 「本当にうるせえなお前は。さっさと尻を上げろ」 「腰と言いたまえ」 「いいから黙ってその幸薄そうなケツを上げろ」 簡易的な清拭と消毒を終えると、いよいよ先ほど取り揃えた道具達が一斉に越光へと襲い掛かった。その外見は医療などで見慣れた器物に過ぎないが、「それで何をされるか分からない」と言う前提条件が加わることでグロテスクなアイテムに姿を変える。電極はその手の平、静脈に突き刺さる注射針はその爪であり、越光は全身をその魑魅魍魎へと捧げる他はなかった。
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