侵掠如火

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下らない茶番に付き合わされたアッシュは顔をしかめたが、そこまでして食い付いたライズの話を聞き終えても、眉間の皺が消えることはなかった。 「だから、追い詰めるなって言ってるだろうが!」 「だから、僕じゃないって!ギランハーツ・レーガンが勝手にやったんだよ!」 「嘘吐くんじゃねえよ。あの慎重と臆病の区別も付いてない盆暗が、三代全員現役のマキナ家に弓を引く度胸なんざあるワケないだろ。お前『アレ』を使ったな?」 「いやいや、レーガンの御二方に『アレ』は使ってないよ。ウェイク・オラングには姿を貸してもらったお礼にプレゼントしたけどね」 「国軍の上層に使ってギランハーツを扇動したのか。合点は行ったが、随分と回りくどい真似をしやがったな。グルーフィン・レーガンに埋め込んで不意討ちやらせりゃあワンチャンあったものを……」 「僕もそこそこ地下に通ってたからね。そこで見た人間の世界の遊びで気に入ったものがあったんだ。玉突き遊びはね、途中に沢山ボールがあった方が色んなところに影響が出るし意外な結果に繋がって楽しいんだよ」 「お前もしかしてビリヤードのこと言ってるか?あれはそう言う遊びじゃねえよ。途中の玉が増えたら失敗する確率が高まるだろうが」 やはりこの二人の意見は徹頭徹尾噛み合わない。しかしライズは組織の人員削減にとうとう最後まで引っ掛かることはなく、不本意ながらアッシュに利益をもたらす数少ないメンバーだと認められている。 ライズがどれだけ余計な行動を取ったとしても、それがアッシュの不利益に繋がる前により良い結果を招いてしまう。それが意図的なのか、驚異的な豪運なのかは未だに判断ができていない。しかし、これが続く限り物怖じせず怪物と向き合う覚悟がアッシュにはあった。
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