侵掠如火

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何てこった…… たった数週間。求められるがままに教えを施した結果がこれか。こんなにも早く、人間の世界に慣れるなんて。人間の知識を蓄えてそれを活かしてくるなんて…… 俺は、とんでもない相手を育ててしまったのかもしれねえ…… 「ちょっと、聞いてますか?」 「アッ、ハイ」 楠木は自分が主である筈の家で、ルゴールドに正座をさせられていた。原因は昼食用に買って来たカップ麺であった。スーパーの買い物袋からこれを発見され、説教に至っている。 「買い物の時点で分かってはいましたがね。外で声を掛ける訳にもいかなかったので。私の言いたいことはお分かりですね?」 「健康に悪い……だろ」 「違います。今の貴方には食べる資格がないと言うことです」 「うぐ」 ルゴールドは楠木と外出する度に、擦れ違う人間の一人一人を欠かすことなく観察した。それだけに留まらず、分からないことは積極的に楠木を頼り、時には自ら疑問を捻出して『人間』と言う生き物に対する理解を深め続けた。 その結果、ここ数日前にルゴールドは遂にある結論へと辿り着いてしまった。 「貴方はもう少し痩せるべきです。これまでに見て来た人間の平均と、貴方に買って頂いた様々な本から得た知識を総動員させてそう言っています。反論がないことは以前確認したと思いますが」 「いやあ、人間ってのは太るのは簡単でも痩せるのは難しいようにできてる生き物なんだよ……」 「それは違いますね。人体の構造ではなく意志の問題です。食の快楽に溺れて太った人間はそれを手放せない。痩せる努力をしたがらないと言うだけです」 今のルゴールドにはもはや似非の知識は通用しない。これまでに築いた知見が土台となり新たな気付きや考察に繋がる。これにドラゴンとして元から持っていた分を合わせれば、一度加速を始めた学習スピードに口を挟むことは不可能である。
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