侵掠如火

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「誰なんだ?」 「魔力だけで特定することはできませんが、こんな集合住宅のど真ん中に魔力を垂れ流しで来るような狼藉者には心当たりがあります」 そう話している間に魔力の気配はドアの前で止まり、ノックの音が静かな部屋に二回ほど響いた。 「私が出ます。貴方は此処から動かないで下さい。窓の側にも近寄らないようにお願いします」 ルゴールドが警戒しつつ鍵を開けノブを下そうとした瞬間、その手に凄まじい電流が流れた。 「ッ!」 怯んだルゴールドを跳ね除けるように勢い良くドアが開き、鎧を着こんだドラゴンが何人も顔を覗かせた。ルゴールドが咄嗟に殺気を放って足止めをしなければ、この家は瞬く間に制圧されていたところである。 「何だ、お前が握ったのか。人間の方なら手早く用が済んでいたのに……風は読めるクセに空気は読めないんだな」 「やはりか……」 ルゴールドは翼を広げて進路を塞ぎつつ、軍勢の先頭に立っていたギランハーツを睨み付けた。横暴そのものである今の一幕も然ることながら、開口一番に楠木に危害を加えるつもりであったことを晒したことでルゴールドの危機感はより一段高いものへと引き上げられた。 しかし、それをギランハーツが恐れることはない。 「何の御用ですか」 「どうして俺がお前如きの質問に答えなきゃいけないんだ。奥にいるんだろう?楠木とか言う人間を黙って引き渡せ」 「……それはできません」 「ほう。暫く見ない内にまた随分と大口を叩くようになったものだな。お前と俺の身分の差を忘れたわけじゃあるまい」 国軍の重役に上り詰めたギランハーツがその気になれば、特例で釈放されているルゴールドを適正無しと判断して牢獄に戻すことは容易い。前回と同様に、ギランハーツはその事実をちらつかせてルゴールドを屈服させようとした。
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