侵掠如火

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「安心しろ。お前が大人しく差し出せばあの人間に手荒な真似はしない」 「これは誰の命令ですか。私は龍王であるエルゼ・マキナから直々に許しを得てあの人の傍にいるのです。それを反故にするような命令が下されたと言うのは信じられません」 「はあ……」 ギランハーツはガクリと項垂れながら小さく溜め息を吐くと、ポケットに入れていた握り拳を引き抜いて思い切りルゴールドの横面を殴り飛ばした。 ルゴールドにとってその拳を躱す程度であれば難しくはなかったが、無抵抗を装いながらと言う前提ではリスクが伴うため敢えてそのまま受け入れる選択をした。 「随分と手荒な真似をしますね」 「ああ。さっきも言ったが手厚く保護するのは人間共だけだ。お前はどうでも良いからな。事情さえあれば殺したって構いはしねえよ」 (人間『共』……?) 口元に滲んだ血を手首の裏で拭いつつ、言葉の端々から漂う異常事態の匂いを冷静に分析した。 前回のように、優位を示して自分を嬲りに来たようには見えない。同時に脱獄者の献上が遅れていることに対する報復と言った嫌がらせの類いでもない。 そこから伺えるのは、ただひたすらに何かを成し遂げようとする苛立ちと焦り。説明する手間すら惜しむ程である。 「退け」 「お断りします。詳細を明らかにしないのであれば、私はあの人を引き渡す訳にはいきません」 「此の期に及んで抵抗するつもりか。随分と……」 「舐めた真似してるのはテメエの方でしょう」 ルゴールドは俊敏かつ一切の無駄がない動きでギランハーツの下顎に爪を軽く押し当てた。それは加害行為と呼ぶには控えめであるが、扱う者によってはこの上ない警告となる。 「ぐっ……!」 身じろぎ一つでもすれば、即座に首を跳ね飛ばす。そんなメッセージを込めた威圧感がギランハーツの全身を縛り上げた。
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