侵掠如火

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「勘違いしているようなので訂正しておきますが、前回大人しくしていたのは我が身可愛さのためではありません。あくまで楠木大悟と言う人間を護るためです。その役割を果たすにはこの世界に留まらなくてはならない。だから連れ戻されることを恐れた」 つまりその楠木に手を出されては正に本末転倒であり、ルゴールドが大人しくしている理由は全く存在しない。 「あの人を訳も分からず連れ去られるくらいなら、この場でテメエ等全員血祭に上げて別の仲間に託した方がマシです。その後で私が投獄されようが処刑されようが、あの人が助かればそれで良い」 そこまで忠告し、ルゴールドは指を畳んでギランハーツの下顎から爪を退けた。ギランハーツはよろけながら数歩下がると、これまで碌にできなかった呼吸をやっと整えた。 「本気みたいだな……良いだろう。ワケくらいは教えてやるよ」 ギランハーツは龍希とブランクが討伐対象に指定された炎の国と手を組み、その後国軍の上官にも手を出したことで正式に犯罪者となったことを告げた。そこまで言えば、楠木を連れて行こうとした理由も自ずと浮かび上がる。 「つまり、羽桜龍希とブランク・マキナを投降させる人質にしようと言うことですか」 「人聞きの悪いことを言うな。あの二人を正しい道に連れ戻すための協力者になって欲しいとお願いしているまでだ。だからお前はともかく人間の方は手厚く保護すると、さっき言ったんだろうが」 ギランハーツの言っていることに一応筋は通っているように思える。しかし口にした本人が全く信用できないと言う点が強く足を引っ張った。 「だが、お前がこの世界に一人残っても意味がねえのは分かった。それだったらお前も一緒に来れば良い。殺されちゃたまらねえからな。ここまでは譲歩してやるよ」 「……」 「返事は今、この場でしろ。どうする?」
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