侵掠如火

12/29
前へ
/931ページ
次へ
「……フッ」 数秒間の沈黙の後、ルゴールドの口から毀れ出たのは小さな失笑であった。 「何が可笑しい」 「善悪、利害、損得、そんなものが入り混じった言葉の中で宝探し。食われないよう何を信じて何を疑うのか、血眼になって見分けようとするのはやっぱりこの上なく疲れるものだと思いましてね」 「殺せるかどうかにしか興味のなさそうな戦闘狂だと思っていたが、中々に条理ってものを分かってるじゃねえか。そうさ、俺が長年生き抜いて来た世界はぬるま湯なんかじゃない」 「別にそんなことは誰も聞いてませんよ。何かのコンプレックスだったんですか?」 「・・・・・・!」 ギランハーツはルゴールドが今まで見てきた中では最も不愉快そうな表情を浮かべた。ルゴールドはこれにて一矢報いたものとみなし、矢継ぎ早に自分の決意を伝える。 「国軍ならまだしも、貴方は信用に値しません。正確に言えば、私に信用されようとする努力を見せないその態度が気に入らない」 「罪人の分際で、後悔するなよ」 「しませんよ。私はこの場で貴方に逆らったとしても、自由を取り戻せる確証がある。あの時は気付けなかった。人を尊び人の心に耳を傾ける豊かな日々が私に教えてくれたのです。信じることの大切さを」 「思い上がるな。お前なんかを信じる奴など誰もいない。お前が信じて救いを差し伸べるような相手もな!」 「貴方こそ思い上がるな。捕らえることはできても裁くのは貴方じゃない。私は信じている。龍王、エルゼ・マキナを」 「何だと……!」 ルゴールドが因縁深いマキナ家を信じると口にしたことそのものに対する衝撃と、エルゼを後ろ盾にされたことでこれまで振り翳してきた脅し文句が無意味と化したショックでギランハーツは絶句した。
/931ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加