侵掠如火

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ルゴールドは今この瞬間、誠実で在ることの大切さを強く噛み締めた。 「何かと理由をでっち上げて私を捕らえる程度なら、貴方にとって容易いことでしょう。しかし恩赦を取り消して牢に戻すともなれば独断と言うわけにはいかない。必ず龍王であるエルゼ・マキナの目を通さなくてはなりません」 「その際に自分は助けてもらえるとでも言うつもりか。臆面もなく、よくもそんな恥知らずなことを……!」 「信頼関係とは奥深いものですね。マキナ家の宿敵として暴れ回った私がマキナの龍王を頼り、長年国軍を勤めた貴方がそれに策を絶たれる。信じる気持ち一つで、過去も立場の差も覆るのです。やっと、私の中にも繋がりの糸が芽生え始めた……狼藉者如きに断ち切らせはしませんよ」 信頼を自覚し、それを武器に脅迫を撥ね退ける術を得たルゴールドに迷いはない。開いた手の爪先を差し向け、先程の恐怖が再燃して反射的に身を竦ませたギランハーツを突き飛ばした。後続が怯んでまごついている間に振り返って駆け出し、勢い良く居間のドアを開けた。 「逃げますよ、今直ぐに」 「話は聞いた。もう準備はできてるぜ!」 楠木は聞き耳を立てて悶着を避けられない雰囲気であることを察知し、身支度を整えてルゴールドが飛び込んで来るのを待っていた。これもルゴールドは正しい判断を下せると言う信頼があればこそである。 「申し訳ありませんが、窓の鍵を閉めるのは諦めて下さい」 「ああ。どうせアイツ等のせいで玄関の鍵も開きっ放しだからな。貴重品はちゃんと持って来たから、暫くは帰らなくて大丈夫だ」 「そのつもりでいてくれると助かります。私のせいで住処を追われることになってしまい、申し訳ありません……」 「気にするなって。謝るのは逃げ切ってからだ」 「はい」 何があっても、この人間だけは守り抜く。ルゴールドは改めてそう心に固く誓った。
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