侵掠如火

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不意打ちからのスタートダッシュでギランハーツ率いる国軍からはある程度距離を置くことができたが、人間一人を背負っていることや以前に下段の翼二枚を切り落としてしまっているハンデもありこのまま易々と逃げ切れる可能性は殆ど存在しない。 「さて、正念場はここからですよ」 これは今までこなしてきた単純な戦闘とはまるで性質が異なり、ルゴールドにとっては不慣れとなる護りの戦いである。 しかしルゴールドとて空手ではない。以前と異なり、龍希のようなイレギュラーではなく楠木や青山と言った等身大の人間に対する知識を深めている。故にリードが残っている間に高度を稼ぎ、文字通りの「雲隠れ」を行う策は楠木の存在がネックとなり困難であることを認知していた。上昇に伴う急激な気圧変化に耐えられる人間は龍化を経た強靭な肉体を持つ者だけであり、楠木が手を尽くした万全の防寒もまるで意味を成さない。 「私に、魔法の許可を」 「よし来た」 楠木が腕に嵌められたリングに念じることで、初めてルゴールドは制約から放たれ魔法を使うことができる。これによって光の屈折を操り他者の視界から姿を消したルゴールドが向かった先は、上空ではなく目下の町であった。狭い路地裏にするりと着地し、屋外階段の陰に身を隠すと直ぐに魔法を解除した。そして魔力の使用が止まった瞬間を検知して制約が発動し、ルゴールドの魔法は再び封印される。これは即ち、他者が感じ取れる魔力の放出も絶たれると言うことである。 「早速飛んで来ましたね。一人、二人……この人数から考えると全方位に兵を散らしたようですね。つまりこの方角に見当をつけているわけではない」 標的を見失った国軍に対し、ルゴールドは隠伏の魔法を使わざるを得ない国軍の魔力を探知して悠々と戦況を把握した。
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