侵掠如火

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楠木からしてみれば、ほんの少し角度を付けて覗き込めば発見されてしまうであろうこの隠れ場所は不安で仕方がなかった。対してルゴールドはしっかり身を屈めて最大限の努力をしつつも、現状を打開できると言う強い自信を覗かせる顔付きであった。 「やっぱり、魔法で姿を消した方が良いんじゃないか?」 「その必要はありません。寧ろ、此処で魔力を発してしまったらこの策が台無しです」 「だけど、魔力で完全な居場所が分かるわけじゃないんだろ。姿そのものを見られたらそれこそ元も子もないじゃないか」 「その意見も一理あります。ですが、それでも大丈夫なんです。この街にはドラゴンには決して破れない、強い結界が張られています」 「け、結界?」 楠木は落ち着かない様子で辺りを見回すが、ルゴールドの示唆する結界らしきものは見当たらない。そのことについて再び尋ねると、結界とは魔法によって作られるとは限らないと答えた。 「ドラゴンは魔法を使い、あらゆる生物を超越する力を身に付けています。それはドラゴンの大いなる特権であると同時に、大いなる呪いにも成り得る。『それができるのだから、そうする筈だ』と言う思考に縛られるのです」 「じゃあ上で飛び回ってる連中は、ルゴールドが魔法を使うのを止めて普通に隠れてるとは思ってないってことか?」 「ええ。魔力の気配を感じないのは、気配を感じない程遠くに逃げているからだと考えるでしょう。もし魔法を解除するとしても森林の奥深くや山中、こんな飛び立って数分の街中で息を潜めてるなんて夢にも思いませんよ」 「何か、ピンとこねえなあ。いくら何でも短絡的過ぎやしないか。あいつらだってエリートなんだろ」 「これは知能の問題ではないんですよ。貴方には分かる筈もない感覚ですが、ドラゴンにとって人間の街と言うものは近寄り難い異世界の象徴なのです」
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