侵掠如火

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「まあ、確かにドラゴンから見ればここは異世界のど真ん中ってことになるんだろが……逆ならまだしも、ドラゴンが人間にビビるものなんだな」 「大分その辺の意識も変わって来たと思いますよ。何処かの誰かさんのせいでね」 「アイツはイレギュラーだろ」 「そう考えられるのは本人か人間に対する造詣が深い者だけです」 ルゴールドは楠木と言う主を手に入れたことで魔封じの制約から解き放たれたのだから、必ずそれに頼る筈であると言う思い込み。そして特異点によって知れ渡った、人間の持つ底知れない可能性。二つの潜在意識が重なり、本人達の気付かない間に町へ降りると言う選択肢は消える。ルゴールドの言う結界とはこの心理現象そのものを指していた。 「しかし、私はこの場に生身で降りることができた。人目に付かぬ場所とは言え、魔法で姿を隠すこともなく。貴方の後を追って毎日のように人間を見て、町の中を通り続けたお陰です」 ルゴールドは小さな動きで胸に手を当てた。 「この世界は我々のホームグラウンドです。あんな余所者にデカい面はさせません。何をしてこようが凌ぎ切って、空手で帰らせてやろうじゃありませんか」 「ああ。俺達が力を合わせりゃ絶対にできるぜ。それはそれとして……」 その決意を後押しするかのように、町の上空から魔力の気配が遠ざかったとルゴールドが告げた。楠木が助かるだけならばこのまま隠れ続ければ良いが、事態はそう生易しいものではない。 「くそっ、有子からもエルトからもチャットの返事が全然来ねえ。既読すら付いてねえ。俺のこと揃ってミュートしてるんじゃないだろうな……!?」 楠木は先ほどからこまめに確認していた携帯電話の画面を再び見て焦りを露わにした。
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