侵掠如火

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ルゴールドは今最も必要なことを理解している。もう一度空を見上げ、探知に全神経を集中させた。 「もうこの辺りに敵はいません。暫くは声を出し続けても問題ないでしょう」 「そうか、助かった!」 楠木はディスプレイを操作し間髪入れずエルトに電話を掛ける。幸いにも不慮の事態は発生しておらず、普段通りのエルトをスピーカー越しに確認することができた。 「もしもし、もしもし!」 『どうされましたか。随分とお急ぎになられているようですが』 「いや無事なら今はそれで良いんだ。有子もちゃんといるよな?」 『無論です。あの……もう一度お伺いしますがどうされたのでしょうか』 緊迫した声色からエルトも非常事態であることを察し、先程よりも不安げな様子で現在の状況を尋ねた。楠木は「いいから直ぐに家から逃げ出せ」と言いかけ、ふと口をつぐんだ。 「なあ、ルゴールド。アイツらは有子の家を知ってると思うか?」 「それは……何とも言えませんね。ギランハーツ・レーガンは我々の家を探り当てて来ました。同じことができる可能性はゼロではないでしょう」 「その腕輪が発信機とかになってる可能性はないのか」 「だったらもうとっくに此処は見付かってますよ」 「確かにそうだな。……エルト、ちょっと電話切らないで待っててくれ。それと、誰かが訪ねて来ても絶対に招き入れるな!追手がいる。俺と有子を捕まえようとしてるらしい」 『それは、只事ではありませんね。畏まりました』 「まだ気掛かりなことがあるんですか」 「大アリだ。俺はさっき、エルト達に自分の家から逃げてバニアスのところに避難しようって言うつもりだった」 「そこで追っ手を巻いた私達が合流する。悪くない流れだとは思いますが」 「だけどよ、そもそもあの家って安全なのか……?」 「……!」
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