侵掠如火

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こうしている間にも、スピーカーの向こう側にいるエルトは息を飲んで次の言葉を待っている。早く結論を出したかったが、どうやら焦りは禁物らしいと言うことが明らかになり二人はより緊張感を高めた。 「そう、ですね。確かに言われてみれば避難先として適切なのかは疑問が残ります」 忘れられる筈もない。今でも龍希達が必死になって捜索している越光は、これから避難しようとしているバニアスの家で襲撃を受け攫われたのである。しかも当初のターゲットは有子であり、それを知りながら再び有子をバニアスの家に逃がせとエルトに指示するのが果たして正しい判断なのか。 「だけど、あのライズとか言う野郎が持ってる情報と国軍の情報はイコールじゃない。国軍は知らないって可能性もまだある」 「そこで先ほどの話の続きなのですが、追放処分を受けているバニアスとついこの間までは無関係ノーマークだった空鍔有子の家、どちらが知られている可能性が高いかと言えば確実に前者でしょう」 「バニアスはずっと昔からマークされててもおかしくないからな……やっぱり、有子の屋敷が安全ってことになるのか」 「あくまで、見付かる可能性の話だけで語ればですがね」 「……そうだよな」 楠木はスピーカーを塞いでいた手を外し、力の籠った声で一言告げた。 「エルト、有子を連れて華弥山に向かってくれ」 『し、しかしそこは……』 「そうだ。バニアスのところで集まる。怖いかもしれないが、頼む、今はこれしかないんだ」 『分かりました。何かあれば直ぐにご連絡します。どうかご無事で』 「ああ。お互いにな」 そこで通話は一旦終了した。わざわざ現状よりも危険度の高い場所にエルトを送ることは苦渋の選択であったが、ルゴールドの一言でこうせざるを得ないことに気が付いてしまった。
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