侵掠如火

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そこから経過した時間は、丁度20分。追手が完全に退散するまで待ちたいが、度が過ぎれば時間は先に華弥山へと向かったエルトと合流するタイミングが遅れる。ドラゴンが飛行する速度から移動の安全が確保できるギリギリの時間を概算し、その決断を変えることなく飛び立った。 この見積もりが合っている保証は何もない。国軍側の状況やギランハーツの作戦次第でいくらでも裏目を引く未来は在り得るが、考えても分からないことで迷うことは無駄であると割り切る度胸が既に二人には備わっていた。 「油断なきよう」 「分かってる」 短い会話の後、安らぎの地と言う勲章を剥奪された家の前に二人は降り立った。以前に交わした会話の通り、有子は以前この家で襲われその身代わりとして越光が攫われると言う結末を迎えている。 無論、安全とは言い難い。しかし有子の屋敷は町中にある。万が一国軍に居場所を知られていた場合、人間の世界で暮らすドラゴンにとって町中での交戦が致命傷になると言う弱味に付け込まれる可能性が高い。 「故に、交戦の覚悟があるのなら此処で……と言うことですか」 既にバニアスの家に到着して有子と共に待機していたエルトは、一通りの説明を受けてその方針に理解を示した。 「確かに空鍔家の屋敷で戦うことになるくらいであれば、人目に付かない場所で迎え撃つと言う考えには賛成です。向こうに理性的な対応が期待できない以上、他に得策があったとも思えません」 「しかし、それは即ちこの家や山を戦場にしてしまうと言うことになります。家主である貴方には、特に先んじてお詫びしなくてはなりません」 「頭下げることはねえよ。昔一緒にワルやった仲じゃねえか。ジイさんも出て行っちまったことだし、大いに活用してくれ。山とかめちゃくちゃにされるのは嫌だが……まあ、お前とネスレで立て直してくれれば良いさ。とにかく、今は防衛に全集中だ」
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