侵掠如火

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「ああ、でも……家建て直すのはお前でも無理だよな」 「無理ですね。植物関係なら魔法で修復も容易ですが、人間の世界の建造物ともなると複雑過ぎてどうにもなりません。やっぱり嫌でしょうか」 「うーん、胸を叩いた手前あんまり惜しむことは言いたくねえが一応思い出の場所だしなここは……」 複雑な心境の中で揺れるバニアスを見て、楠木がフォローしたい気持ちを抑えることは不可能であった。 「まあここが戦場になると決まったわけじゃねえ。国軍の連中も案外ここはノーマークってこともあり得るぜ」 「あり得ないんじゃねえかなあ。俺は追放された罪人だし、居場所は抑えておきたいだろうよ。そうじゃなくたってこの華弥山は脱獄犯が出入りする危険地帯として最近悪名が轟いてんだ。お前達だってついこの間大捕り物をやってたじゃねえか」 バニアスの指摘した通り、この華弥山はドラゴンの世界から通じるトンネルの出入り口に設定されている。人間の世界の捜査は後回しにされていたとしても、そこから脱獄犯が出入りしていることは国軍も把握している可能性が高い。 「それに、国軍の奴等だってこの山から出入りしてるだろ。諦めてくれたとしても、帰り掛けにちょっと一杯みたいなノリで寄って来られるだけで修羅場だぜ」 中途半端な慰めが眠れる獅子を起こしてしまったらしく、バニアスは一気に見積もりの甘さを捲し立てた後、恥じ入るように取り繕った。 「まあ、それを踏まえたって追い出そうってわけじゃねえけどな。やるならリスク承知でやってくれよって、まあそう言うことだ」 「バニアスよ、少し短絡的ではないか?」 中々落ち着きを取り戻せないバニアスの肩に、今度はネスレが前脚を乗せた。
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