侵掠如火

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「成る程。これは元々端尾さんのために……」 「そうだ。ネスレとレピンスにも手伝ってもらって、いざって時の備えをしてた。結局ジイさんは町に降りて施設で暮らすようになっちまったが、この穴がまた活躍する機会に恵まれたのは幸運だったな」 「まあ誰のために使うのであろうと、使われないのが一番の幸運だと思いますがね」 「それは言いっこなしだろ!良いから早く降りろよキザ野郎」 エルトがバニアスの指示に従って底に足を着けると、ドラゴンと人間合わせて十人は入れるであろう空間が視界の先に広がっていた。 「これは想像以上ですね。上の部屋を丸ごと地下に持って来たかのようです」 「俺は力仕事くらいしかできなかったが、地面のことならネスレが専門家だからな。レピンスが水の魔法で土を固める手伝いもしてくれたから、もう百人力よ。強いて言うなら、灯りを用意できなかったことくらいか。地下で焚火する訳にもいかねえしな」 「それは私が光属性の魔法で照らせば問題ないでしょう。専門家と言うほどではありませんが、安定力や持続力なら得意分野です。御二方も、降りてみてはいかがでしょうか」 エルトが安全の確保ができていることを確認すると、有子と楠木が続いて穴の中に入り、ルゴールドがそれを淵から見下ろす形となった。 「お前は降りないのか」 「いえ、これから行きますよ」 ルゴールドは未だに続く声の謎に思考を割いて動きが鈍くなっている。それを不自然に感じたレピンスに問い掛けを受けたが、その回答とは裏腹にルゴールドはようやく踏み出した足を再び止めてレピンスの方を振り向いた。 「どうした。行くのだろう」 「貴女、今日は随分と静かですね」
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