侵掠如火

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半ば追及を受けるような形でルゴールドに問い掛けられたレピンスだが、当然その道理に納得はしない。 「私が普段、騒がしい存在だとでも言うつもりか」 「静かとは必ずしも口数が少ないと言う意味ではないのです。貴女はこの場所に居着いてから、とても活き活きとしていました。背景やこれまでの経緯から考えれば正に夢のような日々でしょう。なんら不自然ではありません」 殺し屋として生まれ、そして死ぬ運命から救ってくれたバニアスにもう一度会いたいと言う一心で地獄に舞い戻り、夥しい量の血で穢した手でようやく掴み取った自由。恩人であり最愛の相手であるバニアスとそれを分かち合う日常は、ただ過ぎ行くだけの時間も幸福に満ちたものとなる。 「しかし、今の貴女からはその活気を感じない。何かあったのではないかと思いましてね」 人の心と触れ合うことでそれを理解できるようになったルゴールドは、密かにレピンスを祝福していた。だからこそ、ふと覚えた違和感を見過ごすことができなかった。 「見透かしたようなことを言うものじゃない」 「私は純粋に心配をしただけなのですが……そう言うものですか。申し訳ありません、まだ気遣いの類は素人なもので」 「良いから早く降りろ。お前の使命はあの人間共を護ることだろう……!」 ルゴールドとしては真摯に謝ったつもりであったが、それを受け入れなかったレピンスに追い立てられるようにルゴールドも塹壕へと降りた。 「想像していたよりもずっと広いですね。まさか背筋を伸ばして立てるとは」 「それは結構なんだが、ここまで天井が高いと俺一人じゃ上まで帰れないぞ。ジャンプしたって穴の淵に手で触るのが精一杯だ」 「その時は私が抱えて跳ぶか、先に出てから引っ張り上げますよ」 その他に、留意しておくべき部分はないか。ルゴールドが空間の全貌を把握しようと周囲を見渡すと、部屋の隅に向かって有子が駆けて行く姿が見えた。
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