侵掠如火

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「ココの窪み、何があるのかしら」 四隅の中に一つだけ、角が奥に逃げているような形状になっている部分があった。中央から照らすエルトの光では影になってしまい、その先は見ることができない。どこまで続いているのかも分からない。 もしかすると、もう一部屋あるのだろうか。好奇心を抱いた有子がそこを確かめようと柔らかい地面を踏み締めて向かって行くところであった。 「あの凹みの部分には何があるんですか?」 まだ出入口の真下にいたルゴールドは、バニアスを見上げてそう尋ねた。しかし、返って来た言葉は全く想定外のものであった。 「凹みだと?そんなもの作った覚えはねえぞ」 「え……では、他のお二人のどちらかでしょうか」 「ネスレもレピンスも作らないだろそんなものは。仮に言い出したって許可しねえよ」 「じゃあ、あれは……」 確かにこの空間は、元々端尾のために用意された避難所である。慣れない場所は壁を伝って歩くであろう盲目の老人が、突然支えを失うような部屋構造が採用されている筈がない。 しかし理屈で納得できたところで、現実として未知の空間は存在する。ルゴールドはバニアスに降りて来るか最低限覗き込んでもらおうと、有子が駆けて行った先を指差すがそこは誰もいなかった。 さっきまでいた筈の有子がいない。 「・・・・・・!?」 あまりにも突然の出来事に、百戦錬磨のルゴールドも一瞬あらゆる思考が脳内から吹き飛んだ。安全を確保するための秘匿な空間で仲間に囲まれている状況で、精神が弛緩していたところに冷や水を浴びせられた。 自分が奇襲を受けたのなら戦闘の構えを取って反撃に転じれば良い。しかしこのような場合の対処はまだ反射で行える程の経験が蓄積されていなかった。そもそも、今が一体どう言った状況なのかすら分かっていなかった。
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