侵掠如火

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「有子は、何処へいきました?」 バニアスを呼んだ間に、一体何があったのか。もしかすると自分だけが知らないのかと思い尋ねたが、楠木も、エルトですら今の状況を認識していなかった。余所見をしていた訳でもない二人が見失ってしまうほど、一瞬で声一つ発することなく有子の姿は消えたと言うことである。 「ッ……!」 他はまだスイッチが入っていない。声を上げて気付かせるよりも、自分が走った方が早い。ルゴールドは口よりも先に足を動かし、隅の死角が見える位置まで一歩で跳んだ。 「やあ。僕の予想は当たりだね。君が一番早かった」 「な、何ィ……!?」 ライズ。 ライズがそこにいた。 越光を攫った張本人が、忘れ物を取りに来たと言わんばかりに待ち構えていた。 「どうかな?渾身のサプライズ、楽しんでもらえたかな?」 それだけではなく、蔦で猿轡をされた有子がその腕の中でもがいている。何故ここにいるのか。どうやって侵入したのか。混乱した脳に滑り込んで思考を妨げようとする疑問を闘志で捻じ伏せ、ルゴールドは有子に手を伸ばした。 「魔法、自由に使えなんだってねえ。今はまだ許可が出てないのかな?」 ルゴールドは追手に居場所を悟られないため、一度魔力を封印状態にしてからまだ解除していない。再び楠木が許可を出せば魔法を使うことができるが、先走って行動したため間に合わなかった。まさかこれほどまでに緊急で魔法を使わなければならない事態に陥るとは想像もしていかなった。 (せめて、この身を犠牲にしてでも有子だけは……!) 「健気だねえ。切ないねえ。君にそんな表情ができるなんて、やっぱりもう一度こっちに来て良かったよ」 有子の姿が消えてからここまでで十五秒になる。楠木やエルトもようやく異変に気が付くが、あまりにも遅かった。
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