侵掠如火

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今ライズが有子を抱えて立っている場所は袋小路であり、三方は壁に囲まれている。その奥に向かって手を伸ばすルゴールドに、ライズはせせら笑いながら告げた。 「分かってるよね?」 分かっている。ライズは自分と同じ土の属性を持ち、植物を使役できる。バニアスが言っていた通り、周囲に存在する土の壁の更に内側にはネスレが伸ばした植物の根が通っている。 全て分かっていた。壁から飛び出した硬化植物に、伸ばした手を刺し貫かれる程度のことは。 ライズはそれを楽しんだ。かつて自分のためにしか戦わなかった男が、人間の少女一人のために我が身を差し出す滑稽な姿を。 「ルゴールド!」 よろめきながら走り込んだ楠木が、状況を見て直ぐに大声を上げた。それは封印を解き、ルゴールドに再び魔法を使える許可を出したことを知らせるためのものである。 「ええ、分かっていましたよ」 ルゴールドは楠木が間に合うことを分かっていた。自分よりも生物として遥かに上位に立つルゴールドのことを身の程を知ることなく心配し、こうして来てくれることを信じていた。 全身に魔力が漲り、それを刺し貫かれた右腕に集約する。ルゴールドの肉体に接触している植物は瞬く間にコントロールを奪われ、その支配力は壁の中まで浸透した。 「おおっと、これはマズい」 あとコンマ数秒もしない内に、今度はルゴールドの操る植物が四方八方から突き出して来る。ライズはそれを察知し、背骨を軸に体をぐるりと回転させた。 自分の体は下に逃がしつつ、その場所には入れ替わるようにして有子の体を差し出した。こうしてしまえば、ルゴールドは攻撃の手を一瞬止めざるを得ない。そして元々有子の体が合った場所はそのまま安全地帯となる。 しゃがみ込んだ拍子に手を地面に着き、予め仕込んでおいた魔法陣を難なく起動させた。
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