侵掠如火

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魔法陣はその形を成したものに魔力が流れていれば成立する。故に象るものは塗料でも壁床の傷でも問題なく、達人と呼ばれるような使い手は魔力そのものをインクのように使って魔法陣を成立させる場合も多い。また陣を用いる魔法は手間に見合うだけの強大な効力を発揮するが、魔法陣を崩されると不発になる弱点を抱えている。 (あの形は、恐らく転送の魔法陣……!) 近距離であれば魔法陣を崩すことで逃走を阻止することが定石であるが、ライズが起動させようとしている魔法陣は足元の植物を使って強固に編まれていた。 これでは多少手足で払ったり風を起こす程度の妨害は意味を成さない。全てを切り刻んで薙ぎ払うような真空派を伴う豪風ならば対処できるが、その被害を最も受けるのは魔法陣でもライズでもなく、そのライズが盾にするであろう有子である。 では、植物の魔法陣なら植物で崩せるか。護る戦いに対する不慣れがここで致命的な遅れを生んだ。コントロールできる植物は全てライズの半身や頭部を狙える位置まで動かしてしまっており、攻撃として効率の悪い足元には残っていなかった。 「さあ、おいで!」 そしてダメ押しと言わんばかりに、ライズは有子の体を引き落として魔法陣の上に押し付けた。これで直接的な破壊も通用しない。ルゴールドは、その身を以て龍希が光の剣と言う能力を欲した理由を痛感した。 過ぎたるは猶及ばざるが如し。余りにも過ぎた力は、誰かを護ろうとする際は余りにも無力なのである。 「有子!」 「え、う……!」 人前であることを忘れて思わず有子を呼び捨てにしたエルトと、口を塞がれ返事をすることも叶わなかった有子の呻き声が、二人の交わした最後の会話となった。
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