Underworld

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「ねえ、僕に協力してよ」 有子が目を覚ましてまず最初に聞かされた言葉はライズの戯言であった。 (……) 上半身を起こした後、一応周りを見渡す。 今寝かされているのは質素な牢のベッド。それの他、椅子などの散見される全ての物はサイズが一回り大きく、気を失う前の光景と照らし合わせれば自分が越光と同じ道を辿ったことは想像に容易い。 最低限の情報は把握したが、それでも口を開いてライズに応えるようなことはしなかった。 (話すだけ、無駄なことだわ) コミュニケーション、情報の入手、交渉など、人と言葉を交わしてできる行動は幾つかあるが、異常な精神を持ち平然と他人を欺くことを生業としているライズ相手にはその全てが意味を成さない。寧ろ、助かろうともがいた分だけ蜘蛛の巣に絡め取られることは目に見えている。 「ダンマリかあ。それじゃあ、交渉は成立だね!」 (……!?) ライズの言葉は相変わらず脈絡がなく、掴みどころがない。しかしその意味を問い質そうと口を開けば向こうの思う壺である。有子は動揺を悟られぬよう、数多の舞台で鍛え上げられた精神力でポーカーフェイスを保つ。 そんな内心を知ってか知らずか、ライズは気さくに歩み寄りベッドに腰掛けた。わざとらしい程に頬を引き上げ、満面の笑みで有子に真意を囁く。 「実はね、僕は友達から仕事を頼まれてるんだ。羽桜龍希に近しい人間を攫って、情報を聞き出せって。龍使いが荒いよねえ。参っちゃうよ」 普通に考えれば、それをターゲットに向けて言う必要はない。狼狽える姿が見たければもっと出鱈目な脅し文句を吹っ掛ければ事足りる。そのどちらも選択しなかったと言うことは、ライズが真実を告げることこそもっとも有子を苦しめる手段だと考えていることに他ならない。
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