Underworld

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希望はある。 希望はある。 黙秘を続ければライズに嬲られる。それこそがライズの本命。しかし、それは裏を返せばライズに情報を欲する意思は殆どないと言うことである。 ライズはこの時間を長引かせようとしてくる。お誂え向きだ。それならば耐えれば良い。耐えて、越光を探すべく既にこの世界にいる龍希や自分を追い掛けて来てくれるであろうエルトの救出を待てば良い。 自分は強い心を持っている。今こそ、精神力の見せどころだ。 『有子』 「ェ、ッ……!」 待ち望んだ声。意識を失いかけていた有子は覚醒してビクリと体を震わせた。 冷や汗が止まらない。 目の前で優しい笑みを見せるのは、エルトではない。エルトを模したマスクを被ったライズである。 「あーっ、やっと反応した!じゃあこれが『当たり』だね♪」 容姿は目で見たものを再現すれば済むが、声はそう容易く真似られない。声色は喉内にある声帯の長さと厚さ、口腔や鼻腔に代表される声道の形、骨格と脂肪量など、多くの要因によっていくらでも変化する。喉の外観を完全に模倣できても同じ声にはならないのである。 そのためライズは一度だけ聞いたエルトの怒号をサンプルに、それらの要因を少しずつ調整しながら平常時の声を試作しては有子に囁いた。 調整から発声までおおよそ1秒、長くても3秒。それを20時間以上延々と繰り返された。ドラゴンであるライズにとっては没頭している間に過ぎてしまう程度のものであるが、心身共に消耗し切った少女の有子にとってその時間は生き地獄そのものである。 極度の緊張は維持されないが、入眠できるほど落ち着くこともできない。朦朧とする意識の中で続く生殺しのような時間が有子の精神を削り落とした。体力が限界を迎え、糸が切れるように失神する正にその寸前で、事もあろうにライズは当たりを引き当ててしまった。
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