Underworld

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エルトの姿と声を真似て、それを使って有子を嬲ろうとする悪趣味極まりない魂胆だが、それに対して苦言を呈する気力すらもう残されていなかった。しかし性も根も尽きた今だからこそ、できることがあるとライズは考える。 「じゃあ下準備も整ったところで、尋問を始めようか」 このやり取りには何の意味もない。ご馳走を前にして『頂きます』と手を合わせるようなものである。 「最終的に情報さえ手に入る状態なら文句は言われないだろうからなあ。取り敢えず指を何本か落としてみる?」 「ッ……」 わざわざ有子が最も忌み嫌うであろう物真似を極めておいて、その先に待っていたのは純粋な拷問。精神的に攻め立てられるものと思っていた有子は思わず背筋が凍った。 「いや分かってるんだけどね。君は痛みに屈するようなタマじゃないって。単純な暴力なんて、無駄なだけ」 まずい。この男は分かっている。 ライズの言う通り、覚悟を固めている有子は痛みを与えられることを恐れていない。年端も行かぬ少女には出来過ぎた心構えだが、それでも受け入れられないものはある。 「僕の昔の友達がさ、戦いの中で翼を切り落とされて無くしちゃったんだ。切られて直ぐなら魔法でくっ付けられたのに……ふふっ、自分で呼び出したマグマに落っことしちゃったものだからさあ大変。もう二度と空は飛べなくなっちゃいましたとさ。せっかく有翼種に生んでもらったのにねえ」 ライズはそう言いながら、腕を蛇のようくねらせ有子の肩に巻き付ける。言わんとすることを有子がきちんと理解しているか確かめるため、エルトのマスクを被った顔を有子に近付けその表情を覗き込む。 痛みなど苦ではない。しかし、肉体的な欠損は今後の人生に大き過ぎる影を落とす。特に有子の場合、この先にある生きる意味を全て奪われかねない部位、その指を真っ先に例えに出したライズの嗅覚は相変わらずであった。
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