Underworld

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用済みにならず生き延びることさえできれば、仲間が助けに来てくれると言う信頼に揺らぎはない。自力で脱出を図る気概も失ってはいない。しかしそれらは何れもそう少なくない時間を掛ける。その時間は残りの人生を奪う。それを実行しかねない男が目の前にいる。その男はこともあろうにエルトの姿と声を真似ている。 嫌だ。嫌だ。この体を傷付けられたくない。これに耐えたところで、誰のためにも何のためにもならない。何の意味もなく生きる意味を潰されたくない。有子の精神は瞬く間に追い詰められた。 「ぎ、ぎ……!」 歯を食い縛ってもなお、締めきれずにガチガチと音が鳴ってしまう。それは恐怖で震えているだけではない。この先に待ち受ける死よりも惨めな未来に抗いたいと言う炎が、体内を流れる龍の血に引火してしまったことで沸き上がる衝動を抑え込んでいる証拠でもあった。 「暴れるのかい?良いよ、おいで。有子」 「止めろ!!」 龍化に蝕まれた体に必死の思いで力加減を叩き込み、一刻も早く舞台に戻れるようにエルトや父の指導の下リハビリを重ねてきた。ここでまた龍化して暴走すれば、人間としての空鍔有子はまた壊れて行く。しかし、この力に頼らなければ自分は何もできない。抗わなければ今この場で壊される。 「嗚呼、ああ、アアアアアアアッ!!!!!」 どうしようもない板挟みの間で加圧され、そこから一気に噴き出すかのようなイメージで有子は翼を広げた。全身に力が漲り、間接が軋む。今まで積み上げたものが崩れ去り無に帰す哀しみと、人間の無力を嘲笑うかのような仕打ちをその身に受けた慟哭が牢の中を突き抜ける。 「やっと僕に剥き出しの感情を向けてくれたね。ここからまた面白いものが見られそうだ」 ライズは有子の殺意もどこ吹く風で、長い時間を掛けた甲斐があったと感慨に浸った。
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