Underworld

9/32
前へ
/931ページ
次へ
「お前はちょっと目を離すとすぐコレだ。好い加減にしておけよ」 緊迫した空間に突如幕は降ろされた。それも上から下ではなく、左から右へ。真っ赤な炎の幕がライズを包み込んだ。 「うわわ、熱い!熱い!」 炎は勢いも小さく温度も抑えられたものであったが、エルトの顔を模したゴムマスクがそれによって溶け出し、高温の樹脂が顔にへばりつく苦しみにライズは思わず転げ回った。 「何するんだよ、もう」 「それは全く以ってこっちのセリフだ。追い詰めるなら精神まで。肉体にダメージを与えるなって、俺はちゃんと言ったよな?」 鉄格子の向こうから語り掛けているのは、有子も一度会って以来記憶にこびりついている男、アッシュ・グリスタであった。言うまでもなくライズが所属する殺し屋組織のトップであり、その権限を以って有子の誘拐を命じた張本人である。 「いやいや、僕は彼女の肉体に傷一つ付けちゃいないじゃないか」 やっとの思いで樹脂を拭い取ったライズは、楽しみを邪魔された上に面白みのない冷遇を受けたことに文句を垂らす。しかしアッシュは焦げた髪や薄赤く腫れた顔を見ても同情一つすることはなかった。 「目に見える傷だけがダメージだと思ってんのか。人間が人間じゃない化け物に変身してるんだ、無事で済む筈がねえ。俺達が魔法やで姿を変えるのとはワケが違うんだよ」 (……!) 相変わらずアッシュは人間に対しての造詣が深く、敵味方と言った脳裏を掠めて当然の要因を判断に折り込まない。理があると断ずれば躊躇わず有子の肩を持ちライズの顔を焼く。 その絶対を思わせる行動は、有子の暴走を食い止めるだけのエネルギーを持っていた。
/931ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加