Underworld

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「落ち着けよ。望むならこのバカの非礼は詫びてやる」 「熱いなあ。溶けたやつ服の中に入っちゃったよ、ねえ」 「うるせえ。取り敢えず出ろ」 「はあい」 「・・・・・・」 有子は特に言い返すことなく牢屋から退散したライズを見て、ようやく動悸が一段階静まった。 まだ疑わしい部分は多くあるが、それらの可能性を一々考慮して行動できるだけの余裕が有子にはなかった。一刻も早く、我が身を蝕んでいる龍の力から逃れたかった。 指輪を駆使し、不本意に解き放たれた力をその中に再び封印する。身に纏われていた魔力が霧散し、一点に集約されて吸い込まれる様がハッキリとアッシュの目に映った。しかしそれは不意に訪れた光景ではない。アッシュは最初から全て見ていた。有子がライズに追い詰められ、その力を解き放つまでの過程までも。 危機は去った。去ったことにしなければ心身が持たない。危機から解放された安堵と極度の疲労が身体を支配し、ただベッドへと倒れ込む。意識が糸のように細くなり、それが切れる最後の最後、耳の中に入った会話が鼓膜をノックした。 「勝手な真似するなって何回言えば分かるんだ?」 「そこが僕の良さだって君も言ってたじゃない。今回だってイイもの見れたでしょ?」 「研究は進むさ。だがあの女に関しちゃ結果オーライって訳にはいかねえんだよ。せっかく協力してくれてるお医者さんの夢を俺達が壊しちゃ申し訳ないだろ」 (医……シャ……?) ノックの音は脳まで届いている。この言葉は聞き捨てならぬものだと本能が告げている。 しかし、やはり有子の頭は回らない。倒れた瞬間意識を失ったと誤解したアッシュによる失言を、有子は理解することを咄嗟に拒んだ。有子がその言葉を思い出し、現実と向き合う時が来るのはもう暫く後のことであった。
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