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「それ、は……」
レピンスの視覚障害は肉体的ではなく、魔法によってもたらされたものである。故にそれを克服するとなれば相応の難易度を伴う。ハッピーエンドでは誤魔化しの効かない闇がそこにあるとルゴールドは踏んでいた。
「手を汚すことを代償に、自ら勝ち取ったものだ」
「私は貴女のポエムに興味などありませんよ」
曖昧な言葉ではぐらかせないことは明らかであったが、そうした時間稼ぎに頼らなければならないほどレピンスは追い詰められていた。
「ま、待ってくれ。おかしいんだ、これは、明らかに……!」
やっとの思いで絞り出したようなレピンスのセリフは前後が飛んでしまっており、脈絡もなく理解ができない。しかしルゴールドは焦れて問い詰めることはせず、レピンスの望み通り待ちの一手で腕を組んだ。
従来のルゴールドでは選び取ることができなかったその一手が無言の説得となり、レピンスからの信頼を得るに至った。ルゴールドは、自分の味方でいてくれる。話を最後まで聞いてくれると言う望みを与えた。
「……私の目には、遠視の魔法陣を打ち消すレンズが嵌っている」
「そのレンズにもまた、魔法陣が刻まれていて目のものと相殺させることで視力を元に戻すことができると?」
「そうだ……」
もう、ここまで言えば全て伝わる。バニアスと恙なく暮らすための目は、レピンスが勝ち取ったものではなかった。光はその手の中にはなく、ただ道具を通して貸し与えられていただけに過ぎない。
それも、アッシュ・グリスタの手を伝ってである。
「やはり関係は切れていなかったのですね。あの男が手緩い真似をする筈がないとは思っていましたが、また呼べば戻される程度のものだと信じたかった。現実はそれよりも遥かに深刻なようですね」
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