Underworld

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レピンスはアッシュと、そしてアッシュの率いる組織に従事しているライズと現在進行形で繋がっていた。そこまで明らかになれば有子が攫われた直接的な原因だと決め付けてしまいそうになるが、ルゴールドはまだ待った。 「た、確かに私はこの目と引き換えに多くの情報を渡した。この家の間取り、生活スタイル、誰がいつ山の見張りに出て何処を見て戻るのか……」 「成る程。確かにそれらの情報はいざと言う時は役に立つでしょうが、今すぐに明確な不利益をバニアス達にもたらすとは想像しにくいものですね。しかも貴女が無理せず入手できる範囲に収まっている」 それ故に、レピンスはやっと手にした光ある世界を手放せずアッシュとの関係も断ち切れなかった。バニアス達の生活を脅かすような命令をされたのなら反抗も辞さなかったが、それを見透かされ緩やかな搾取に甘んじるように仕向けられていた。 「まるで茹でガエルのように情報を搾り取られてきたと言うわけですね」 「茹でガエルとは、聞き慣れない言葉だな」 「カエルを熱湯に放り込めば飛び上がって逃げますが、常温の水に入れてゆっくり加熱するとそのまま茹でられて死んでしまうと言う説のことです。転じて、環境変化下が緩やかなものであると、気が付くのが遅れて致命的な事態を招いてしまうと言う警句ですよ」 「私は、そのカエルになってしまったと言うことだな」 「まあ変温動物のカエルが温度変化に鈍感なんて有り得ないことなので、実際には起こらない現象だと言われていますがね」 「……カエル以下か」 「しかし貴女はカエルと違って口が利けます。何か、合点の行かないことがあるのでしょう。もうここまで来たのなら、恥を捨てて洗い浚い話して下さい」 まだレピンスは言い分を残している。ここでそれを遮り糾弾や断罪に走ってしまえば、大切なものを見落とすかもしれない。そんな思いで場の空気を張り詰めさせないようにしつつ、次の言葉を辛抱強く待ち続けた。
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