Underworld

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「私は……この家の情報を渡した。塹壕のこともだ。奴がそこに潜んでいても……おかしくは、なかった。だが……!」 しかしその「おかしくない」と言うのは、奇抜かつ神出鬼没を方針とするライズがそこに居ることは可能だったと言うだけで、今回のようにはっきりとした待ち伏せができたことはレピンスにとって心底想定外であった。 何故なら、アッシュに渡した情報からは塹壕の存在とその場所を知ることはできても、それをどんな事情でいつ利用するかは分からないからである。何より、今回の動乱はレピンスが認知していない。即ちアッシュも、ライズも本来有子が塹壕に訪れることを知り得る筈がないのである。 「私があの時感じた微かな心の震えは、やはり貴女のもので間違いはなかったようですね。既に情報を渡してしまっている塹壕に仲間が向かっているともなれば、気が気でなかったでしょう」 嫌な予感はしていた。しかし有子達が追われていることや此処に逃げ込んで来ることさえ知られていなければ、塹壕で待ち伏せなどできる筈がない。そう自分に言い聞かせ、騒めく胸中を必死になって抑え込んでいた。そんな心の軋がルゴールドの耳に届いたノイズの正体であった。 「これで、ようやく前に進めます」 「どう言うことだ」 「貴女は確かに我々に不利益をもたらした。失われた日常の光景を取り戻せると言うあまりにも魅力的な餌に釣られ、多くの情報を敵に渡してしまった。しかし、それはあくまでも致命的なものにならない範囲ならとの甘えがあったから。我々を直接裏切るような真似なら、どんな対価を差し出されてもしなかった。それに間違いはありませんね」 「それは、確かだ。信じてもらえないかもしれないが……」
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