Underworld

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「いやはや、荷造りをしておいたことが功を奏したなあ」 「そうならないに越したことはなかったのですがね」 先行きの不安は残っているものの、一先ず舌戦に決着は付いた。グルガンらが率いる国軍はルゴールド達を龍の世界へ連れて行き、有子と越光を奪還する手助けを行う。ルゴールドはその見返りとして、龍希を国軍の前に引き渡す。 そして急に訪れた旅立ちを前にするなら最後の一時が必要だとルゴールドが訴え、玄関の戸を閉めることで簡易的にその願いは聞き入れられた。 「髭剃り、流石に要らねえかな。そんなことを気にしてる暇はなさそうだしな」 「いざって時は武器になるんじゃないですかね」 「なるかあ?」 楠木は玄関から続く廊下に座り込み、自宅から逃げる際に持ち出した荷物を整理している。ドラゴン達はそれを取り囲むように立ち、身の振り方を話し合った。 「私達二人と、貴方は向こうの世界に行くことが確定しています」 「俺は例によって、留守番だ」 ルゴールドと楠木、そしてエルトは言うまでもなく奪還に、そして追放処分を受けているバニアスは人間の世界に留まることは既に決まっている。問題はネスレとレピンスであった。 「御二方とも、人間よりバニアスに思い入れがあるでしょうからここに残って頂いて構いません……と、言いたいところなのですがね。今は恰好を付けている場合ではありません。正直なところ、戦力はいくらあっても足りません」 「私……は、この山を離れる訳には……」 ネスレはこの華弥山に深い思い入れがある。脱獄犯がこの世界に侵入を試みている実績がある以上、それを迎え撃つ役割は放棄できない。しかしルゴールド達はそれが建前に過ぎないことを知っていた。 無論山への愛着に偽りはないが、それ以上に龍の世界を忌避する理由があった。
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