Underworld

27/32
前へ
/930ページ
次へ
ネスレが人間の世界に来た理由は決してポジティブなものではない。人の手が届かぬ自然の中で、人と関わることなく静かに暮らす。かつてネスレが人間の世界に求めていたものは孤独と癒しであった。 バニアスや龍希達と出会は、諦念から成る孤独への憧れを払拭した。それと共にネスレの理想とする生き方や守るべきものは少しずつ変わりつつある。しかし、生まれ故郷である龍の世界にそれは存在しないと言う悲観は一貫していた。 「貴女はファードラに対する差別と弾圧から逃れるために世界を渡って来たのでしたね」 「そうだ。正直なところ、一時共闘した仲間とは言え……それを助けたい気持ちよりも、向こうに戻りたくない気持ちの方が強い。悪く思うな」 「勿論、無理強いはできません。その無理を承知でお願いしたいのは、正に山々と言ったところなのですがね」 正直なところ、ルゴールドは口でそう言いながらもネスレは最初から頭数に入れていなかった。相応の背景があることに加え、攫われた人間二人との関わりも特筆すべきものがないことが最大の理由である。 現在のように前途多難な状況においては、能力よりも精神力、魔法よりも執念が重要となる。目的を達成するために、理(ことわり)を超えた力を発揮できるかどうか。正常な損得勘定を捨て、死にもの狂いになれるかどうか。それだけが最後の最後で物を言う。最強クラスの戦闘能力を有するルゴールドがなお皆に求める『戦力』とは、この命運を手繰り寄せるエネルギーのことである。 エルトはその条件を満たしている。逆にネスレやバニアスは、戦闘能力でエルトを上回っていてもルゴールドの中では戦力としての優先順位が劣っている。 そしてもう一人、たった今この状況においてのみエルトに匹敵する戦力となり得る存在にルゴールドは期待を寄せていた。
/930ページ

最初のコメントを投稿しよう!

222人が本棚に入れています
本棚に追加